(浮いてるのは僕の方だった、という話)
タイに住んで9年。 その間に見た「本を読んでるタイ人」——ゼロです。
いや、正確には0.5人くらいかもしれない。一度、BTSの中で文庫本らしきものを持っている人を見かけたが、よく見たらスマホケースだった。そういうことである。
電車でも、カフェでも、公園でも。 みんなスマホを見て笑ってるか、寝てるか、食べてるか、食べながら寝てるか。 そして僕だけがKindleを開いて、なぜか少し浮いてる。まるで「令和にガラケーを使ってる人」くらいの浮き方だ。
📖 本 vs ご飯——優先順位の話
タイでは本が1冊200〜300バーツ。 ガパオライス5皿分。 マンゴーシェイク4杯分。 屋台で3食分。
さて、あなたならどちらを選ぶ?
最低賃金が日給330〜370バーツの国で、本を買うというのは相当な決断だ。 でもそれ以上に、そもそも本を買うという選択肢が生活の中にない。
日本だと、駅にも本屋があり、コンビニにも文庫本があり、図書館もある。 本は「そこにあるもの」で、読むか読まないかは個人の選択。
でもタイでは、本屋自体が少ない。 バンコクの中心部なら紀伊國屋やB2Sがあるけど、ローカルエリアや地方に行けば本屋はほぼない。 あったとしても、品揃えは限られている。
これ、需要がないから供給もないという循環なんだと思う。 読書文化が根付いていないから本屋が増えない。 本屋がないから、ますます本と出会う機会がない。
つまり、タイ人が本を読まないのは怠けているからでも教養がないからでもなく、生活の中で本の優先順位が低く、アクセスする環境も整っていないというだけの話。
そして、それは全く悪いことじゃない。
🏫 教育スタイルの影響——「考える」より「覚える」
タイの学校教育は、どちらかといえば**「覚える」スタイル**。 本を読んで考える、というよりは、試験に出る文を暗記する。 そして先生を敬い、目上の人に従う。
だから"読書"は「勉強っぽい、ちょっとダルい活動」というイメージがある。 読書=休日にやること、ではない。 読書=**「やらされること」**なのだ。
日本でも似たような状況はあるが、タイではもっと顕著。 ある意味、読書がまだ「娯楽」として解放されていないのかもしれない。
これは日本人にとっても学びがある。 僕たちは「読書=良いこと」と無意識に思っているが、それは教育の中で読書をポジティブなものとして植え付けられた結果。 もし読書が「義務」や「試験対策」だけと結びついていたら、僕たちだって本を開かなかったかもしれない。
🌴 外の誘惑が強すぎる——タイは「リアル」が濃い国
タイって、外が楽しい国なんですよ。
年中夏で、屋台に行けば50バーツでマンゴーシェイク。 夜になれば屋外バーで生演奏、ビールは80バーツ。 道を歩けば知らない人が微笑んでくれる。 寺に行けば金ぴかの仏像が圧倒的な存在感で迎えてくれる。
そんな中、「家で静かに読書」なんて選ぶ人、そりゃ少ない。 本を読むより、人を見て、話して、感じる方が100倍面白い。
これ、実は深い学びがある。 日本人は「情報」や「知識」に価値を置きすぎているかもしれない。 でもタイ人は**「今、ここ」の体験**に価値を置いている。
どっちが豊かか? 正直、わからない。 でも少なくとも、タイ人の方が笑ってる時間は長い気がする。
👀 でも、たまに見かける"例外"——絶滅危惧種の目撃情報
バンコクのSiam Paragonにある紀伊國屋書店。 ここには時々、**"読書系Z世代女子"**が現れる。
ラテを片手に村上春樹の翻訳を立ち読み。 たまにページをめくりながら、ちょっと遠くを見つめる。 「知的でおしゃれな私」をさりげなく演出している。
あれはあれで、なかなかアートだ。 まるでInstagramのために本を持っているかのような美しさ。 でもそれでいいと思う。きっかけは何でもいいのだ。
あと、大学生が試験前に参考書を必死で読んでいる姿もたまに見る。 これはもう、日本の受験生と同じ目をしている。 国境を越えて共通する、あの「もうダメかも」という顔。
☕ 浮いてるくらいが、ちょうどいい——そして気づいたこと
タイ人は本を読まない。 でも、彼らは人の話を聞くのがうまいし、表情をよく見てる。 空気を読むのも得意だし、相手の気持ちを察する力もある。
つまり、"生きた読書"をしているのかもしれない。 本から学ぶのではなく、人から、街から、日常から学んでいる。
そしてもう一つ。 タイ人は**「サヌック(สนุก)」**——つまり「楽しいかどうか」を最優先する。 楽しくないことは、どんなに正しくても続かない。
これ、日本人が最も学ぶべきことかもしれない。 僕たちは「やるべきこと」に縛られすぎて、「やりたいこと」を見失っていないだろうか。
そんなふうに考えながら、僕は今日もカフェでKindleを開く。 まわりからはたぶん、 **「まだ宿題やってる日本人」**だと思われてる。
でも、それでいい。 僕はタイで本を読み、タイ人は人生を読む。 どちらも正解で、どちらも豊かだ。
ただ、本を読んでるタイ人を見つけたら、僕は叫ぶかもしれない。 **「ついに出会えた!」**と。
🙏 マイペンライ(ไม่เป็นไร) ——それでいいんだよ、という話でした。
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