これは、タイ人の友人数人と一緒に、タイ国内の観光地へ行った時の話だ。
チケット売り場の前まで来たところで、友人の一人——ここではジョージとしておこう——が私にこっそり言った。
「日本語しゃべるな。タイ人のふりしろ。」
その観光地には、外国人価格というものが存在していた。タイではわりとよくある話で、タイ人料金と外国人料金が別に設定されている施設がある。ジョージの作戦はシンプルで、私に黙ってタイ人のふりをさせて、タイ人料金で入場しようというわけだ。
正直に言うと、私は外国人価格で入っても全然かまわなかった。差額がどうとかではなく、なんとなく、犯罪に加担しているような、妙な後ろめたさがあったのだ。
でもジョージたちの勢いに流されて、結局そのまま入ってしまった。
施設の中に入ってから、ジョージの顔を見て、少し驚いた。
スッキリした顔をしていた。それどころか、なんとなく、やり遂げた感すら漂っていた。
ちなみにジョージ、めちゃくちゃお金持ちである。富裕層である。差額など、どうということはないはずだ。それでもあの顔は、「得した」というより、「うまくやった」という顔だった。
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モヤモヤしながらも、まあ、タイではこういうことは日常茶飯事なのだということは、なんとなくわかっている。
タイのカルチャーでは、便乗値上げも、ちょっとした騙し合いも、そこまで深刻なこととして受け取られない節がある。むしろ、うまく立ち回れた方がちょっと賢い、くらいの空気感がある。騙す方も騙される方も、ある程度織り込み済みというか、ゲームのような感覚で捉えているのかもしれない。
考えてみれば、市場で食品や服を値切るのと、感覚的には同じレベルの話なのかもしれない。「定価より安く買えた、ラッキー」というやつだ。ジョージにとっては、あのスッキリ顔も、値切り交渉に成功した時の顔と同じだったのだろう。
でも、日本人としては、やっぱりどこかモヤモヤする。別に外国人価格で入ればよかった。ただそれだけなのに、なんであんな後ろめたい気持ちになったんだろう、とあとから思った。
こういうのは、まだ慣れない。
でもここで、ジョージに反論して、そんなのやめろよ!みたいなことを言うのは、無粋というものだ。何万円とか何十万円じゃあるまいし。たかが数百円とかの話。マンゴーとかタイパンツとか値切るくらいのレベルではある。
あとでこっそり、TipBoxに差額と、それ以上の金額を入れておいた。 ああ、日本人小市民。