2025年7月4日金曜日

無言で近寄ってきた謎の中国人

不思議な一本のタバコ

こないだ、自分の住んでいるアパートの外の敷地内のベンチでぼーっとしてたら、中国人のグループが通り過ぎた。

もちろん、中国人なのかどうかは、わからないけど、

中国語と思しき言葉を喋っていたので、きっとそうなのかと思った。でもなんか、結構服装とか髪型とか、顔と、さっぱりしていたというか、小洒落ていた。もちろん、中国人も最近小洒落てはいるけど。なんとなくもしかしたら、シンガポールとか、香港、マカオ、台湾の人たちなのかもしれないと、思った。ただ、香港マカオなら広東語だよな、とも思うけど、マンダリンと、広東語の違いは一瞬ではわからない。ていうか、ただ通り過ぎて行った人たちなので、気にも止めていなかっった。

もし、フォーカスして聞いていたら、マンダリンと広東語の違いくらいはなんとなくわかったかもしれないけど、そこまで興味もないし。

で、その中の一人が、タバコを1本くれた。無言で。何故かはわからない。

不意打ちだった。最初、タバコ吸いたくて、火が無いから貸してほしくて自分に寄ってきたのかと思ったら、タバコをくれたのだった。なんというか、予想の真逆というか。こちらが何かを求められるのではなく、向こうから何かをくれるという。

その人は、多分20代後半くらいの男性で、黒いカジュアルなジャケットを着ていて、髪は短く刈り上げていた。特に印象的だったのは、その表情が穏やかで、でも何か決意のようなものを感じさせる目をしていたことだった。まるで、何かの儀式のような、そんな厳かささえ感じた。

何か、僕とコミュニケーションしたのかなとも思ったけど、さっさと行ってしまった。その歩き方も、振り返ることもなく、まっすぐに、まるで最初からそうするつもりだったかのような自然さで。

よくわからない。

手に残ったタバコを見ると、確かに中国語と思しき印刷があった。見慣れない銘柄だった。多分、中国なのかな?とも勝手に思ったが、もう別にどうでも良い。せっかくもらったし、と思って、火をつけて吸ってみた。

そういえば昔、駅とかでタバコが吸えて、で、電車がなかなか来ない時とかに、隣の人にタバコを1本もらったりした。もちろん知らない人である。そういう文化というか、結構もらいタバコとかあった。みんなが大体タバコを吸っていた。

あの頃は、タバコを通じた小さなコミュニケーションが日常のあちこちにあった。駅のホームで、「火、貸してもらえますか」と声をかけられて、ライターを貸して、そのまま少し世間話をしたり。居酒屋の喫煙席で、隣のテーブルの人と「同じ銘柄ですね」なんて話しかけられたり。

そんな時代の一つのコミュニケーションを思い出した。

でも、今回のは、ちょっと違う。言葉も交わさず、理由もわからず、ただ一方的に何かを差し出されるという体験。現代では、むしろ珍しい。知らない人からの突然の善意というか、親切というか。それとも、何か別の意味があったのだろうか。

あの人たちは、観光客だったのかもしれない。それとも、このあたりに住んでいる人たちなのかもしれない。いずれにせよ、僕にとっては完全に見知らぬ人たちで、おそらく二度と会うことはないだろう。

結局、そのタバコを吸いながら、しばらくベンチに座っていた。味は、普段吸っているものとは少し違っていて、なんとなく甘みがあるような、独特な風味だった。煙の感じも、少し軽やかで、でも満足感はちゃんとある。

でも、あの瞬間の不思議さと、そのタバコの味は、今でも記憶に残っている。日常の中に突然現れる、説明のつかない小さな出来事。それが、なんだか妙に印象深くて、今こうして書いている。

知らない人からもらったタバコを吸うという体験も、考えてみれば久しぶりだった。なんとなく、その人の文化というか、生活の一部を少しだけ味わったような、そんな気持ちになった。

きっと、向こうの人にとっては、何でもない、ちょっとした親切心だったのかもしれない。でも、受け取った側からすると、なんだか不思議で、少し温かい気持ちになる体験だった。

世の中には、理由のわからない小さな親切がまだ残っているのかもしれない。そんなことを考えながら、今日もまた、あのベンチに座ってぼーっとしている。


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