2020年7月18日

🍱 ただお昼を食べた時の様子を書いただけのこと

皮下組織にまで達しようかという灼熱のタイの陽射しでさえ、エアコンを長時間浴びた身体には心地良かった。


「ああ、越後湯沢でスキーの後、冷えた身体で入ったあの温泉に浸かる時のような感覚に似てるなあ。」と、スキー世代のバブリー男は感じていた。

昨晩のスコールを越した今日は、また特別快晴だった。太陽はバンコクの都会を照らし、街路樹はまるで夏の日のカリフォルニアの並木のような緑。風が、木漏れ日に彩を添えていた。

ウォール・ストリートビルの地下に潜ると、「酒の店」で定食を食べるのであった。数あるメニューから縞鰺の刺身定食を注文すると、カウンター越しには最年少で将棋のタイトルを獲った若き棋士のニュースが、日本のテレビ番組でしきりに話題にしていた。




やがて目の前にはお昼ご飯が運ばれてくるのだった。



熱い味噌汁が南国の熱気を放っていた。薄くいちょう切りに刻まれた大根がうっすらと透明感を出しながら、口の中に入っていくのであった。巷では高級魚と言われて久しい縞鰺がバンコクで食せるありがたみを嚙みしめようとしたが、刺身なのでそれほどかみしめる必要はなかった。

醤油にロックオンさせる前に、わさびを探したのだが、見当たらなかった。
「もしやタイ人板さんがわさびを忘れたのでは?」と頭をよぎり、キョロキョロした時には、それが醤油ではなくてポン酢であることに気づかずにいたのだ。

気づかずに、ただ時は、ポン酢を揺らしながら過ぎていったのだ。

気づかずに、ただ過ぎてゆく。

実際はポン酢であることを知る由もなく、

ただただ醤油であると頑なに勘違いをしっぱなしのまま、

熱帯の昼下がりはゆっくりと過ぎていくのであった。